■初秋の午餐。東の都のフレンチ。フルコース四軒。半蔵商店。(zwei) |
▲料理の説明に耳を傾け、完全に把握する小坊主さんの図
(前回のエントリからの続きです。)
■前回までのあらすじ。この八月の夏休み、生まれて初めてフレンチのコースを食べることにしました。魚も肉も両方でてくるフルコース。一軒二軒じゃわかんないことも多いだろうから、四軒。とはいえ、お店を選ぶにもどう選べばいいのか、そもそもの知識がないので、財布と相談だけして、あとはもう、なんとなくで選びました。
■以下、四軒それぞれの感想文を、かいつまんで書きました。フレンチ初心者なのでいろいろ訳わからんこと書いてると思いますが、すいません。フレンチにくわしい美食家の皆様方においては、ぜひイライラしながら読んでいただければ幸いです。
個々のお店の評論や採点がしたいわけではないので(できるわけもないので)、すべて店名は伏せます。メニューも詳細には記述しません。
■八月某日、一軒目。鹿を食べる
立秋すぎて、なお暑い日。人生で初めて、積極的に選択して食べるフレンチのコース(とはいえ、上記の通り、お店選びはほとんどカンに頼った)。つまり、この「一軒目」ってのは「人生で一軒目」という意味でもある。
大通りからちょっと入ったとこにある、路地の小さな一軒家。かなりビストロ寄りの雰囲気。でも、いわゆるビストロ料理ではなく、ちゃんとしたフランス料理のコースが出てくる。
人生初フレンチのアミューズ(ヒカシューがかつて所属していた事務所のことではない)は、とうもろこし揚げたやつ。のっけからおいしかった。前菜は二品。鹿のパテと、ホタテ。魚料理は、なんかのポワレ。肉料理は牛や仔羊も選べたけど、鹿を選んだ。前菜でも食べたけどさ、鹿なんて普段なかなか食べないから。
シェフがときおり料理の説明にやってくるのだが、その声があまりにも小さく、レベッカのCDの「せんぱ〜い」よりも聞き取りづらい…。
食後はコーヒー(モカブレンド、とのことだった)とミニャルディーズ(食後の飲み物に添えられる菓子のことらしいんだけど、タイプしづらいよね)。で、これとは別に、ハーブティーが出てくる。おそらく、食後の胃腸に良い、みたいな理由で飲むのかもしれない。
味については、「全体的に塩分ひかえめだな」と感じたくらいで、アミューズのとうもろこし以外の味は、正直あまりよく覚えていない。個々の料理を楽しむ、というよりは、「フレンチのコースをきちんと食べきる」というタスクを消化することに重きを置きすぎてしまったかもしれない。
なんというか、「大過なく過ごすこと」ばかりに気をとられてたというか。反省。べつに緊張を強いられる環境でもなかったんだけどさ、こっちが勝手に緊張してたのかもね。でもしょうがない。初めてってのはそういうもんだ。
鹿のパテに乗っかっていた、削り節のような物体。そうか、あれが白トリュフってやつか、と店を出てから気づく。遅い。
■八月某日、二軒目。トリュフ入りやっさいもっさい
暑いなか、駅からだいぶ歩く。今日の店は一軒目よりだいぶお高いところ(といっても、おれの使う金額なんて微々たるものですが…)。少々緊張しつつ、階段おりて地下の店へ。長い廊下を抜ける。
店内は存外に広く、開放的というか、だだっ広いというか。ま、変に堅苦しさがないぶん、緊張感はいい具合に解けた。
まずグラスのシャンパンを発注するも、若い男ソムリエはいきなりの塩対応。サービス料10%とっといてその態度はないだろう……いいけどさ。この価格帯の店でもこんな対応をされることはある、というのは、皮肉ではなく勉強になった。念のため書いておくと、この若い男ソムリエ以外はみなさんちゃんとした接客でしたよ。
アミューズ(ヒカシューがかつて所属していた事務所のことではない)は小さい器のなんかのスープと、なんかの魚のフリット。前菜はオマール海老。魚は鯛。肉は牛フィレ。
牛フィレの後にチーズ。十種類ほどのチーズがワゴンで運ばれてくる。いくつか選ぶ。何を選んだかは忘れた。そんなもんです。
ただ、トリュフ入りのなんとかってチーズがめちゃくちゃおいしかったのと、そのチーズにはちみつだかメープルシロップだかを塗っていると、木曜『シン・ラジオ』で一般女性リスナーが唄った千葉県の「やっさいもっさい」が頭の中で流れ始めたのを覚えている。潮〜の〜香り〜が〜懐か〜しい〜♪
フランス料理屋でおいしいチーズにはちみつだかメープルシロップだかを塗ると、やっさいもっさいが頭の中で流れる、というのは知らなかった。これも勉強になった。
デザートは桃をどうにかこうにかしたもの。その後に〆の茶菓。店を出る。
この店は盛りつけが一軒目よりだいぶ凝ってて、おっ、と思う瞬間が多かった。料理って、視覚でも楽しむんだなと改めて。盛りつけといえば、最近『プレバト』で盛りつけの回やんないね。土井先生の。
■八月某日、三軒目。グランメゾン半蔵
二軒目よりさらにお高いお店。もうグランメゾン、と呼んでいいでしょう。それくらいの格のお店(といっても、おれの使う金額なんて以下同文)。でも、三軒目ともあって、そこまでは緊張しなかったかな。
まずグラスでシャンパンを発注。昼の早い時間に来たということもあってか、封を切ったばかりの瓶から注いでもらえてうれしい。
アミューズ(ヒカシューがかつて所属していた事務所のことではない)は、野菜をどうにかこうにかしたもの。前菜(i)は鯛。前菜(ii)はズッキーニ。魚はスズキ。肉は牛。チーズワゴン(二軒目とかぶらないように選んだ覚えがある)。デザートはメロン。茶菓。
盛りつけは、二軒目とはまた違った切り口の凝り方で、強いて云えばこっちは抽象度が高い印象。
前菜の皿に、青っぽいソースがシャシャシャとかかっている。あ、白い皿にソースの青が映えてるな、しゃれた盛りつけだな。しかしこの青ってどういう食材の色なんだろう。ブドウ? 茄子? アケビ? お店の人に訊いてみたところ、
「それはお皿の模様です」
との答えが返ってきた。青く見えたのは、ソースじゃなくて、そういうデザインの皿だったのね。これは恥ずかしい……。
炭酸水を頼んだら、サン・ペレグリノが来た。云うまでもなく、フランスではなくイタリアの水なんだけど、まあこっちのほうが料理に合うとか、そういう理由があるのかもしれない。
接客は意外にカジュアルで(高級店の接客は、中級店よりもカジュアル、という話は聞いたことがある)お店の人がいろいろ話しかけてくださって、かまってもらえたんだけど、これ、もしかしたら、おれのことを雑誌の覆面記者かなんかと思って警戒されてた可能性あるな。だって、ねえ、一人きりでこのクラスのフランス料理屋に来る男って、そんなにいないような気がする。お店側にしても、変なこと書かれたらヤだろうしね。って、考えすぎか…。
■八月某日、四軒目。ワゴンデセールでござーる
老舗ホテルの中に入っているフレンチ。内装がクラシック、というか、クラッシックで、「あ、昭和40~50年代の雑誌のカラーページに出てくるフランス料理屋だ!」と思う。昭和のステレオタイプそのまんまでうれしい。古くさいと云いたがるヒトも、どうせいるとは思うけど、おれはわりと好き。
アミューズ(ヒカシューがかつて所属していた事務所のことではない)が良かった。短冊8cmCDシングルくらいの大きさのプレートに、ちょこんと、ガラスの器に入ったポタージュ、魚のマリネ、キャラメルくらいのチーズケーキ、が乗っかっている。
つまり、「スープ」「魚」「デザート」という三品による超ミニコースが、この短冊プレートの上で完成している。
コースの出だしが超ミニコース、ってのが面白い。超ミニコースそれ自体の、箱庭感というかミニチュア感も視覚的に楽しいし、「コースの中にコースが出てくる」というなにやら矛盾したような構造も楽しい。そうか、この演出の妙を楽しむのがコース料理なのだ、と四軒目にして気づく。
前菜はホタテ。魚は太刀魚。肉は、牛も選べたけど、牛は二軒目三軒目で食べたので、鴨。あと、牛よりも鴨のほうが、「フランス料理を食べにきたぞ感」が得られやすい(※個人の感想です)(※諸説あります)。
肉料理のあとのチーズは、お店としてあまり力を入れてないみたいで(少なくともランチの時間帯はそうだった)、ワゴンもなく、すごくざっくりした選択肢しかないのがちょっと残念。チーズありますかと訊くと、口頭で「コンテと、○○と××があります」とだけ返ってくる感じ。まあ、チーズは食べたいので、食べた。
四軒目にして初めて、あの、あこがれの、念願の、ワゴンデセールについに遭遇。デザートが並んでるワゴンが運ばれてくる、というのはやはりわくわくしてしまう。わくわくしながら「これとこれとこれとこれと、あとこれと、これもください!」と頼んだら、お店の人に「全種類ってことですね」と冷静に返事されてしまい、恥ずかしかった。
ケーキのあとに茶菓。
■まとめます
おれにとっては安からぬ金額を支払って、フランス料理というものを食べてみました。
ここまで読んで、味についての記述が少ない、と思われたお侍さんも多いでしょう。うん、正直に書くと、フランス料理の味ってもんがまだわからない。いまはまだ「ふむ……フランス料理ってのはこういう味なのか……ふむ」と確認してる段階なのです。
寺門ジモンいうところの「食べ込み」が足りてないわけなのですが、おれ程度の年収でフランス料理なんか食べ込んじゃったら、それこそ食い倒れになっちゃうでしょう。身の丈に合わない贅沢は、単なる自傷行為です。
でも、この四軒のフレンチめぐりは、贅沢というよりは「いままでの人生で試したことがなかったもの」に触れる実験だったので、それが一通りできたわけだから、これでよしとします。味だって、まるっきり分かんないわけじゃなくて、自分なりにおぼろげながらには楽しめた部分もありましたしね。
■そして八月某日、とあるイタリアン
以上、これまで長々と書いたとおり、六日間の夏休みのうち四日をフレンチの「修行」に費やしたわけですが、フレンチの予約が取れなかったある日の昼、イタリアンに行きました。夜はリストランテ寄りだけど、昼はトラットリア寄りになる、そういう価格帯のお店のランチ。パスタとサラダとパンにグラスワインを付けて二千と数百円、くらいの。
そこで、ボロネーゼを食べていると、「あ、おれ、やっぱりフランス料理よりイタリア料理のほうが合うかも」と思っちゃいました。思っちゃったんだからしょうがない。単に食べ慣れてるか・食べ慣れてないかの差なんだけど、やっぱりイタリア料理のほうがしっくり感じられたのですね。
とはいえ、イタリア料理も、リストランテでちゃんとしたコース料理を食べたことはまだない。うん、
フレンチだけじゃなく、イタリア料理のコースもちゃんと「修行」しなきゃな、などと考えてしまう今日このごろではあります。