■gocoup.1002に関する |
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■東都を代表する電子音楽レーベル<gocoup(ゴクウ)>が昨年、神戸をはじめ、サンクトペテルブルグ、モスクワ、ブリュッセル、ジュネーブ、ウィーン、レイキャヴィク、ブエノスアイレス、リオ=デ=ジャネイロ、東京の各都市を巡る世界公演の全日程を直前になって唐突にキャンセルし、日本のみならず海外の電子音楽界においても大きな話題となったのは、いまだ記憶に新しい。
まがりなりにも文化欄を持つ新聞各紙はこぞって、すわ、gocoup活動終了かと書き立てた。「歌舞伎評論家に鞍替え説」をとなえた新聞もあった。なかにはこれ幸いとばかりに、gocoupの露骨な悪口を有ること無いこと交えて書く者もあり、この風潮はアンチgocoup派の書生どもを色めき立たせたが、本年になってgocoupの新作が発売されることが改めて報じられると、書生どもは再び西洋から輸入された電子音楽のレコードをきいた風な横文字で褒めたたえる作業、ならびに、自分で作った作品を友人と交換し合ってお互いに褒めあい、お互いに自我の藝術家的な部分をいたわりあい、お互いの境遇を慰めあい、自分が自分で決めた締め切りに追い立てられる振りをする作業に戻った。
■「電子音楽屋をたたんだ後は、おおかた歌舞伎評論の真似ごとでもやって糊口をしのぐつもりだろうが、所詮はお猿の印の電子音楽レーベルのやること。どうせ劇評も猿真似作文の域を出まい」。京都第一日報の文化欄にそう執筆した同紙東京支局のF記者がたまたま立ち寄った銀座のカフェーにおいて、たまたま居合わせたgocoup主宰者のM氏にたまたまそこにあったARP2600で殴られるという電子音楽的な意趣返しを受けたのも読者諸賢の記憶に新しいところだ(
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■哀れな記者の失われた前歯の行方はさておき、東都を代表する電子音楽レーベル<gocoup>は本年発売するはずだった新作を、しかし、いまだ発売していない。すでに今年も師走である。今夏、gocoup主宰のM氏はミュンヘンの美術館で行われた講演のあと、新作の発売遅延に関して質問した聴衆に対して「今の時代は、どう考えても暦の方が早すぎる」と一言答えたのみで、この件に関してはそれ以上のステイトメントを発していない。
果たしてgocoupの新作は今年中に発売されるのか。来年に持ち越されるのか、あるいは永遠に延期される/され続けるのか。そもそも完成しているのか、完成すらしていなのか。電子音楽愛好家ならずとも注目の集まるところである。
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■日本ではあまり知られていないことであるが、先頃ストックホルムのラジオ局が、我が国においても極めて情報が少ないこのgocoupの新作について僅かながら報じた。そこで、多少ではあるが瑞語の心得のある筆者が、同ラジオ局で流された放送の録音を日本語に手短に訳し、以下に掲示する。
●本作は'08年8月8日に発売された「少年タルホと水銀ウサギ」の続編である。
●制作は、'10年より極秘裡に進められていた。
●当初は'10年8月8日に発売予定だったが、'10年10月10日に延期され、さらに'11年に持ち越され、幾度かわからないほどの発売延期を繰り返した(その間に、gocoupからは別に複数の作品が発表されている)。
●さらに、最終的な発売日は'12年12月12日に決定されたが、その日付を過ぎてもなお発売される気配がない。
●音源のマスタリングはすでに完了しており、一部の都市ではすでに海賊盤が出回っているとの情報がある。
●その一方、マスターテープを紛失しており、音源が現存しないという情報もある。
●この作品には、gocoup.1002という規格番号まで割り振られている。しかし、完成しないうちから廃盤になっている可能性もある。
以上である。これ以外のことは明らかになっていない。
ちなみに、このストックホルムのラジオ局は、この報道から一週間もたたないうちに放送免許を剥奪され、突如放送停止に追い込まれた。その理由は公にされていない。